Shaikh Marif

2012年秋、SSPの調査チームは北からダム湖にそそぐ涸河ワディ・シャムル沿いを踏査し、複数の遺跡を発見しました。シャイフ・マリフは、この折にみつかった遺丘を含む、三つの小さく低い遺丘から成る遺跡です。地元ではセ・タパン(Se Tapan, クルド語で「三つの丘」の意)とも呼ばれ、私たちは北の遺丘(SSP-37)をシャイフ・マリフⅠ、西の遺丘(SSP-43)をシャイフ・マリフⅡ、東の遺丘(SSP-38)をシャイフ・マリフⅢと称しています。現在、遺跡は畑地として利用されていますが、ダム湖の水位上昇によって季節的に水没する年もあります。文化層は耕作と水の侵食を受けているため、地表に多数の考古遺物が散布しています。

シャイフ・マリフ遺跡(北北東から)

シャイフ・マリフⅢに先史時代と思しき遺物の散布は確認できませんが、他の二つの遺丘では、青銅器時代や鉄器時代の遺物と並んで、後期新石器時代の遺物が数多く認められます。その多くはスサが混和された粗製の土器片で、前7千年紀後半の所産と推定されます。こうした遺物が地表で顕著にみられる遺跡は、シャフリゾール平原内で他に存在しません。そこで、SSPはシャイフ・マリフⅠとⅡで遺物の体系的な表面採集を実施しました。

後期新石器時代の土器片

2016年10月および2017年2月、SSPを主宰するシモネ・ミュール氏とスレーマニ文化財局のご厚意により、私たちはオリフィア・ニウウェンハウゼ氏とともにその採集土器資料を調査する機会を得ました。その結果、シャイフ・マリフ遺跡は、前7千年紀後葉のみならず、前6千年紀前葉の考古学的空白をも埋める可能性が浮上しました。

シャイフ・マリフ遺跡のオルソ画像と地形


そこで、この推定年代を層位学的情報と理化学的手法によって検証するため、本プロジェクトではシャイフ・マリフ遺跡の発掘調査を開始しました。2022年8月から9月にかけて実施した第一次発掘調査では、シャイフ・マリフⅡに焦点を当て、三つの調査区(Operation A, B, C)で地山(自然堆積層)上に堆積した厚さ1m前後の文化層を検出することができました。現在、出土遺物の分析や採取試料の理化学的年代測定を進めているところですが、出土した土器のほとんどは型式学的な所見から前6000年頃のものと考えられます。

シャイフ・マリフ遺跡の第一次発掘調査、2022年(南から)