Shakar Tepe

シャカル・テペ(SSP-24, クルド語で「砂糖の丘」の意)は、その目立った形状から20世紀半ばには学界に存在が知られていた遺跡です。平面形は楕円形で、北東半の低い遺丘と南西半の断面台形を呈す高い遺丘から成ります。北側のダム湖は季節的に遺跡裾部にまで迫り、脇を流れる二条の涸河(ワディ)がそそぎ込んでいます。遺丘の北部には激しい侵食や破壊の痕跡が認められます。
 
シャカル・テペI(南西から)

SSPの踏査により、数多くの散布遺物が採集されていましたが、その多くは前期~中期青銅器時代、鉄器時代、およびパルティア・ササン朝時代のものでした。但し、わずかながら後期新石器時代と銅石器時代(ウバイド期)の遺物も混在していたため、2019年、私たちは改めて踏査に赴きました。その結果、削られた遺丘の崖下、きわめて限られた範囲でこれら先史時代の遺物の散布を確認することができました。なかでも、淡黄色で刻文装飾のある一群の土器片は、北メソポタミア地方における前7千年紀末頃の土器と類似しており、シャフリゾール平原に残された考古学的空白の一部を埋められる可能性が浮上しました。
 
シャカル・テペIのオルソ画像と地形

そこで、私たちはシャカル・テペ遺跡の発掘調査の実施を決断しました。2019年の第1次発掘調査では、該当の遺物が散布する遺丘北西裾部の緩斜面に長さ9.5m、幅2mの調査区(Operation A)を設け、傾斜に沿う形で階段状に発掘を行ないました。正味17日間の発掘作業により、ウバイド土器を含む土層と前6400~6000年頃をカバーする層序の検出に成功し、調査区の最上部から5mほど掘り下げたところで地山(自然堆積層)に到達しました。
 
シャカル・テペ遺跡の第1次発掘調査、2019年(北から)
在地のチャートで製作された後期新石器時代の大型石刃(前6240~6000年頃)
後期新石器時代の土器(前6240~6000年頃)
ウバイド土器片(前5千年紀)

2023年の第2次発掘調査では、開始に先立ち、遺丘の西から南西方に別の三つの低い遺丘が存在することを確認しました。そこで、既に知られていた遺丘をシャカル・テペI、新発見の遺丘を北西から順にシャカル・テペII, III, IVと名付けました。シャカル・テペIIでは頂部4m四方(Operation B)を発掘したところ、ハラフ後期(前5600~5200年頃)の居住の痕跡がみつかりました。また、シャカル・テペIの北西側急斜面、3m四方の範囲(Operartion C)を掘削し、後期新石器時代(前6200~6000年頃)と後期銅石器時代(前3950~3650年頃)にまたがる層序を検出することができました。

シャカル・テペ遺跡(東から)